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モデル解析が行われている3)。それによれば、夏季に河川からこの干潟に流入するおよそ2.4トン/日の窒素のうち1.4トン/日が干潟の多様な食物網の中に取り込まれ、その多くはアサリや海草・海象として収穫されている。すなわち、この干潟では陸から供給される窒素負荷の多くを干潟の底棲生物や海草藻類などが取り込み生態系内に貯留することによりその影響を緩和すると同時に、生産物の収穫を通じて負荷の直接的な除去にも大きな寄与をしている。青山ほか4)は同様の解析をその後も継続し、干潟の二枚貝を中心としたる過食性マクロベントスが懸濁態有機物の効率的な除去に重要な働きをしていることを実験的に確かめるとともに、大型海藻(草)の繁茂の程度がその溶存栄養塩類の吸収能力の変化を通じて干潟のトータルとしてみた水質浄化機能を決定づける重要な要素となることを指摘している。いずれにしても栄養物質などの循環や収支に関する定量的な解析が浄化機能などの評価にきわめて有用であることが分かる。
最近はさらに、このような干潟の浄化機能に注目した生態系モデルによる物質循環の解析が、東京湾の干潟域(盤洲干潟)などで現場観測と並行して進められている5)。Fig.3には、数値モデルにより計算された盤洲干潟における平均的な窒素の循環の様子を示した。浄化という観点で総合すれば、干潟に1日に流入する有機態窒素の60.6%は無機化されて溶存態窒素として干潟から流出し、懸濁物食者の漁獲などにより干潟から直接的に除去される割合は26.9%と一色干潟に比べて小さい、これは海草類や付着藻類などによる取り込みが相対的に小さいためと推定されている。まだ未知のパラメータも多く含まれ、季節変化など現場との対応に関する細かい検討が必要であるが、継続的な調査によって現場の情報がさらに整備されれば、このような数値モデルにもとづく環境変化の定量的な予測・評価とその検証が可能になるものと期待される。そのためには、生物記載を中心としたこれまでの現場調査を物質循環。収支に重点を置いたものに変えていくことが必要である。
2−2. 生物資源の育成・生産機能の評価
沿岸海域への栄養物質などの負荷の増減に対する生態系の応答を魚介類との関連で見れば、栄養負荷の増加に伴いプランクトン食の浮魚類の生産は増大するが、底棲の魚介類の生産は溶存酸素の低下などの影響を受けて逆に減少していく、実際に大阪湾では、栄養負荷のレベルの年代的な変化に対応して漁獲される底棲の魚介類の種類組成などが目に見えて変化する様子が明らかにされている6)。これは底層の貧酸素化などの影響の表れ方が種類によって異なることを反映したものとみることができよう。生物資源の育成・生産の機能を評価するためには、このような漁獲量変動につながる生態系の動的な変化の仕組みを明らかにしておくことが基本的に重要である。
たとえば、埋め立てなどの人為的なインパクトの漁場環境に対する影響の程度を評価するため、漁場環境を構成する諸要因間の連関構造を基礎とした影響評価法(構造モデル法)の検討が進められている7,8)。構造モデル法は、開発行為から漁業生産への影響伝達の細部構造と影響の程度を、現在までに得られている知識や経験にもとづいて可能な限り定量的に表現しようとするもので、基本的に現況を基準としてそれがどの程度損なわれずに保存されるかを表す残存率(現況そのままを1、最大のダメージを0として基準化)を変数として用いながら、要因間の関係の定式化と影響の計測を進める。定量化された構造モデルに、予測される一次的なインパクト(環境変化)を残存率の形で入力することにより、資源量や漁獲量に対する相対的な影響の程度を影響伝達の流れに沿って順次見積もることができる。
しかしながら、現在のところこうした評価計算ができるのは、影響が一つの方向に伝わる単純な構造のものに限られ、生態系や資源の再生産など本来的にフィードバック性の強い構造を持つものは、計算に入る前に連関関係の具体的な内容を吟味した上で計算可能なものに作りかえる。このような取り扱いは、基本的に動的な特性を持つ現象をかなりいびつな形で評価してしまう危険性を含んでおり、影響の計測結果を総合的に検討する段階で十分な注意が必要となる。
そこで、構造モデル法の考え方をよりどころとしながら、環境の動的な特性やそれに対応した資源生物の動態を表現できるようにした漁場環境容量モデルの検討が開始されている9,10)。このモデルは、海水流動・拡散、物質循環や酸素収支などの環境動態のモデルと、評価対象とした生物の資源動態のモデルを連結する形で組み立てられ、さまざまな人為的なインパクトに対する環境と資源量の応答関係を数値的に吟味することにより、資源量変動にクリティカルな影響を与えるインパクトの限界を探索する仕組みになっている。評価にとって最も重要な決め手となる資源動態のモデルは、対象とする資源生物の卵から親に至る生活史の各段階ごとに、成長と死亡をそれぞれパラメータとして数量化されることから(Fig.4)、生活史モデルとも呼ばれている。最近この方法を福島県沿岸のホッキガイ資源に適用する試みがなされ11)、流れなどの環境変動に対応した漁場への稚貝の補給量(着底量)や漁獲量の変化をある程度計算

 

 

 

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